巻頭言
老子哲学と精神療法—あえて弱く生きてみる
野村 総一郎
1
1一般社団法人日本うつ病センター
pp.288-289
発行日 2017年4月15日
Published Date 2017/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205356
- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
筆者は最近,老子哲学に魅せられていて,これを精神療法に応用できないかと考えている。いや,精神療法と言っても,体系立ったものを確立しようという話ではないし,何か技法を作ろうと企てているわけでもない。ただ老子の考え方の中に,「患者のために役立つ確かなもの」を感じているにすぎない。それを理論的,合理的に整理するのは時期尚早かもしれないが,何がかくも私を老子に駆り立てているのか,このまとまりのない一文から多少なりとも読み取っていただけると幸いである。
老子は今から2500年位前に生きた古代中国の思想家であり,生涯で5,500余の文字しか書き残していない。この短い文章でその後の東アジア,いやおそらく全世界に影響を及ぼす壮大な哲学を展開したわけである。しかし,筆者が老子の著書「道徳経」を一読し,読み終わった時には「これは実のところ全篇,うつ病について語った本ではないか」と思えたし,「それ以外の読み方はできない」とも感じられた。そうなると,むしろこれまで老子の治療的応用が本格的に成されていなかったのが不思議なくらいに思えてきたのであった。
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.