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身体疾患における予防概念の必要性が強調される中で,精神医学領域における予防や早期発見・早期治療の重要性に対する認識は,わが国でも次第に広がりつつある。精神疾患において早期治療が重要であることは,この病の長い経過を見ていたクレペリンも書き残しているから,新しい概念とは言えない。しかし公衆衛生的な問題意識を持ち,universal,selective,indicatedというMrazekら(1994年)の予防概念をモデルとして,精神科領域で予防に関する戦略的な検討が始まったのはここ20年のことである。当初は統合失調症や精神病を対象として,地域における早期発見・早期治療すなわち早期介入(early intervention)により精神病未治療期間(DUP)の短縮を目指し,Critical Period(治療臨界期)における集約的治療の重要性が指摘されるようになった。そしてさらに発症間もない時期における脳の器質的変化が,実は臨床症状が揃い顕在発症とみなされるよりも前,すなわち今日いうところのat-risk mental state(ARMS)においても始まっていることが多数の研究で示され,顕在発症前からの介入,すなわち予防的介入への関心が高まってきた。
しかしながら,早期介入が予後の改善に明らかに有効とみなされるようになっても,多くの国々においてその知識の波及は研究室レベルでとどまり,広く地域において早期介入のためのモデルや予算立てが行われて実践されている国は少ない。2014年11月に東京で開催された第9回国際早期精神病学会では,今後の地域実践の重要性の認識の拡大と実践の普及,すなわち精神科領域における早期治療の重要性に関するリテラシーの拡大について熱心に検討がなされた。その結果,この分野の国際団体であるInternational Early Psychosis Association(IEPA)は,IEPA Early Intervention in Mental Healthと改称し,より広い精神疾患における早期介入の普及啓発を目指すことを明示した。すなわち,精神疾患のほとんどがより一般的な精神・身体症状から始まり,やがてより特異的な症状へと進展していくことを考えれば,早期介入は精神病になりそうな人のみを選りすぐって対象とするのではなく,ありふれた精神症状が広くさまざまな精神疾患へと進展することを考慮することが重要なのである。
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