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嗜癖者の「自己破壊癖」に言及することによって,われわれは,われわれの観察を,嗜癖の動機の鍵となる重要な地点におし進めた。人間にとって,自己構成,自己発見,自己形成,自己実現を目指している生成の過程において,これらすべてのものに反対の自己破壊の衝動が本来的には待伏せしていないものだとするならば,嗜癖的行動様式の出現に対するもっとも本質的な前提は存在しないことになるであろう。一部はこのように破壊的な内的動因のもつ毒性により,一部は,それが,当該者にとっては,見抜くことができないということによって,再三再四,観察者は驚ろかされる。生成者として存在と非在(Nicht-Sein)との間で宙ぶらりんのまま,相対的な非在の可能性が,個々人を脅かし,かつしばしば,彼の生命行為を決定的にその非在の方へとひきつける力を獲得する。破滅の深淵とこのようにひそかに親しく交わることは,「堕落した」(gefallen)人間の本性に属する。その中で,医学的に重要な症例は,一変異を示しているにすぎない。
嗜癖のあらゆる種類に共通しているのは,自己破壊の傾向である。破壊的諸傾向が,それ自体としていかに見抜かれることが少ないかは,この破壊的傾向が,仰々しいスローガンの旗のもとに,われわれ国民のおそるべき運命を決定したという事実(訳者注。ナチズムの支配をさす)によって,さいきん2,30年の間に経験せられた。このことは,とくにまったく嗜癖にあてはまる。この破壊的傾向は,少なくとも観察者にとっては,私がこれから報告しようと思う一服装倒錯者の場合におけるごとく,それほど劇的にいつも出現するというわけではない。本例は,また他方,犠性者の意識のなかにおける破壊的傾向に特有であるその匿名性についても教えるところが多い。この服装倒錯者の振舞は,しばらくの間続けた変装遊戯にもはや満足できなくなった後,男にとってははじめから拒まれている現実に女になるという可能性を強行しようとする計画にとりかかるという点において,ひとつのグロテスクな転回を取った。自己形成の原理としての女の心像に憑かれた彼は,ある日,女のように排尿し得るようにと会陰の高さにおいて鋭い刃物をもって自己の尿道に穴を開けようとした。女のように排尿することができるということが,男性的な心から女性的傾向をも取りだすことができるというすこぶるはっきりした第三の可能性を示しているだけになお一層,この彼の振舞は,われわれにはひじょうに奇怪な気持をおこさせる。彼にとっては,この可能性は,彼の暗い衝動,すなわち,拒絶した自己の男性性を事実上の女性性の中へと変化せしめることの実現と同意義であった。私は,この例についてある種の部分的動因を見過していた。すなわち,同じく間違った養育をした母への依存である。彼女は,娘をもうけることを熱望したが,この望まずして生れた少年を思春期にいたるまで少女の服装をさせ,髪を長くさせていたのである。
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