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臨床,体質研究,遺伝学そして性格学のさまざまな経験は,それが嗜癖の特性のあらゆる可能な前提条件の理解にかかわるものであるかぎりにおいては,豊富な資料を提供してきた。あるいはひとはいうかもしれない。この論題は汲みつくされてしまった。今後,新しい観点が示されることはないであろうと。
われわれ精神科医にかぎらず,とかくひとつの持殊領域に没頭している者にとって起り勝ちなことば,このような,物理学,生物学ないしは心理学(これらの学問領域は,例として引用したにすぎない)といった特殊領域が,自然の全体に対する眺望をおおい隠してしまうということである。まさに争う余地のない科学的思考の利点を形づくるもの,すなわち,あたかも目に装具をつけて,勝手ではないが,意図をもってはっきり取り出した現実の一断面を,精密に,しかも精神の集中を妨げるぐるりの他の領域を遮断しながら,その内実について研究していき,さらにすすんで,その内容についての理論を成就するということ,これらすべてのことは,おのずから置かれた帰結なのであるが—まさにこのような科学的思考の基本的姿勢が,また除外と遮断とを意味する故に,現実をひじょうに巧妙に歪めてしまうというまったく予測しなかった侵害を準備しているのである。人間が成し,企てることは,もとより,彼が遭遇することの一小部分に過ぎない。研究者にとって,課題として現われることの多くは,内容的にはっきりした研究方向が,その目的を達したかにみえたとき,それ自体としてやっとあきらかになってくる先与的なるものVorgegebenesを含んでいる。冒険は,まさに避けられない。それが,科学的営為の確実な途上においてすら待ちかまえているということは,人間の精神史上の興味ぶかい契機を形づくっている。
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