巻頭言
戦後40年—ドイツ精神医学者の反省
猪瀬 正
1
1国立武蔵療養所
pp.362-363
発行日 1986年4月15日
Published Date 1986/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204127
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I.はじめに
わが国では,あいついで精神病院や精神科医療上の不祥事が起って,世間の人々を驚かせ精神科に対する信頼がますます損われつつある。そして,わが国の精神医学界の混乱は外国誌(Nature)1,2)で世界に紹介されるに及んで,われわれ精神医療に従事する者はみじめな立場に置かれているといってよい。このことについては別な機会に考察することにして,ここでは最近私を驚かせたドイツでの出来事を記して,精神医学と精神医療について考えてみたい。
それは最近ドイツの専門誌に2人の精神科教授が,ナチス時代の精神障害者大量殺害事件について論文を書いているという事実である。その著者は,K. Heinrich3)(Düsseldorf大学)とR. Degkwitz4)(Freiburg大学)である。今になって何故過去の忌わしい事件をとりあげたか,その理由は私にはよく判らない(事件に関する記述はこれまでに多くの人によつて発表されていた)。あるいは,戦後40年というけじめをつけようというのであろうか。
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