巻頭言
大学病院における精神医学教育
風祭 元
1
1帝京大学医学部精神科
pp.606-607
発行日 1985年6月15日
Published Date 1985/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405203950
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向精神薬を中心とした薬物療法,個人精神療法や集団精神療法,入院中の生活療法や作業療法などの社会復帰活動,病院や精神科診療所における外来活動など精神疾患に対する治療法はこの数十年の間に大きく進歩したといってよい。わが国の精神科医療は,さまざまな困難な問題を内包してはいるが,現在では大部分の精神科疾患は,精神科専門医の思い通りに治療をすすめることができれば通常の社会生活が可能な程度に治り得る病気になっている。それにもかかわらず,わが国の全病床数のおよそ4分の1が精神科疾患の入院患者で占められて半永久的な入院を余儀なくされ,精神障害者による自殺や犯罪が跡を絶たないのは,精神科医の思い通りに医療がすすめられないことが一つの大きな理由となっていると考えられる。
これをもう少し具体的にいえば,病気であっても治療の容易な初期に精神科医の診療をうけない,たとえ診察をうけても患者本人も家族も病気であることを受容せずに医師の指示通りに治療をうけようとしない,社会復帰のためのアフターケアの設備や体制がきわめて不十分である,病気がよくなった人達を社会が暖かく迎えてくれない,といった理由をあげることができよう。これらの中には,患者が自分の病状について正しい洞察ができないといった,精神科疾患のいわば本質にかかわると思われる問題もあるが,大部分は精神科疾患についての正しい啓蒙が行われていないことに帰せられると思う。
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