Japanese
English
短報
記銘減弱,追想作話,地誌的失見当を前駆症状とした多発性脳梗塞の1例
A Case of Multiple Cerebral Infarctions with Anterograde Amnesia, Confabulation in Reminiscences and Topographical Disorientation as Prodromal Symptoms
中安 信夫
1
,
奥野 洋子
1
Nobuo Nakayasu
1
,
Yoko Okuno
1
1東京大学医学部精神医学教室
1Department of Psychiatry, Faculty of Medicine, University of Tokyo
pp.520-523
発行日 1984年5月15日
Published Date 1984/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405203761
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I.序
脳梗塞の前駆症状として,かなり高率に一過性脳虚血発作が生じることは広く知られているが,我々は記銘減弱,追想作話,地誌的失見当,実体的意識性を前駆症状とした多発性脳梗塞の1例を経験したので報告する。
我々の観察はその前駆期から始まり,記銘減弱,作話,失見当識などコルサコフ症状群を構成する諸症状の出現とともに,アルコール長期多飲歴があり,多発性神経炎を伴っていることもあって,当初コルサコフ精神病と診断したものの,次いで上記諸症状の減弱ないし消失とともに,粗大な脳梗塞の多発をみて診断を訂正したものである。脳梗塞の結果,コルサコフ症状群が出現した例はこれまでにも報告が散見される(後大脳動脈の閉塞による両側海馬の軟化)2,4,8,9)が,それはいわば完成された,固定的な病像としてであり,本症例に見られたような,脳梗塞の前駆症状としてコルサコフ症状群を構成する諸症状が見られたという報告はない。前駆症状は来るべき脳梗塞の警告症状であり,臨床上その鑑別診断が極めて重要である。本症例に見られた諸症状およびその推移を定型的なコルサコフ症状群と比較することによって鑑別診断に役立てたつと考える。またその病態出現機序について,アルコール長期多飲と脳動脈硬化の複合という観点から考察したいと思う。
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