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I.動物モデルと薬物スクリーニンゲテスト
精神疾患の動物モデルを作成しようとする試みは,パブロフの実験神経症14)以来古くから行なわれ,最近では「実験精神病理学」6,7)という一つの学問領域としてまとめられる場合もある。初期の研究には,動物を種々の葛藤状況におくことによって「神経症状態」を作成しようとする,いわば神経症の動物モデルが多かった。これは神経症の発症には状況要因が大きく関与しているので,状況を操作することによって動物にも神経症を作ることができると考えられたためであろう。これに対して精神病の成因には内因(生物学的要素)が大きく,しかもそれは人間特有のもの故に精神病の動物モデルの作成は難しいと考えられがちであった。しかし最近の歩みには内因性精神病のモデルへの挑戦も種々試みられるに至っている。あるものは精神病の成因に対する心理学的仮説に立脚し,またあるものは生物学的仮説を証明する目的をもっている。いずれにしろ近年,いろいろの面で精神病の動物モデルが必要とされてきたことは間違いなく,本特集もそのような状況の反映といえ,よう注1)。
うつ病については,これまでHarlowの「分離飼育ザル」3),Seligmanらの「学習性無力モデル18)」や本特集号の鳩谷5),永山8)のモデルなどが試みられ,それぞれ評価を受けているが,これらのモデルで強調されているのはいずれもうつ病との症状の類似であった。すなわち,「いかにヒトのうつ病に似たものを作るか」に力点が置かれているように思われる。もちろん病態モデルである以上,これは当然の態度であり,「モデル」という言葉そのものにも「似ている」という意味が含まれていることは言うまでもない。しかし症状の類似性ということだけを論点にした場合,「結局は人間と動物は違うから,動物モデルなどは意味がない」との反論を受けることになり,えてして動物モデル論は不毛の議論に陥りがちになる。しかし実はモデル研究の本質は「類似性」にではなく,むしろ何のためにモデルを作るのか,という「目的性」にあるのであり,すでに鳩谷4)が指摘したように方法論的な自覚のなかにモデルが存在すると考えられる。
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