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この論文のタイトルは,おそらくいくばくかの驚きとともに,当惑すら引き起すであろう。確かに,「急性精神病」は正確な学術用語ではない。あらゆる種類の精神病には急性期が存在しており,そのような全ての急性精神病相期に関して本論文で論評することを期待している人はいないと思う。本論文では,この急性精神病という用語をかなり限定した意味で用いている。それはまさに,国際保健機関の精神衛生部門が計画した特別研究に対する名称として応用された操作的用語,実用的用語なのである。従って,本稿で用いられる用語「急性精神病」は引用符づきのものと常に考えられるべきである。
本稿では,このWHOプロジェクトの開始に関する背景を記載することから始めた方が実際的であるかもしれない。その研究の起源は多数の国でICD-8版や9版内の特定部分への不満にあるだろう。ICD-8版の発刊以来,このICDに従っては簡単に分類しえないいくつかの型の精神病が存在することが,特にアジア,アフリカ諸国の精神科医によって主張されてきた。そしてそれらの精神病は極めて頻度が高いとされているので,ICDのこの欠陥は重大なものであり,この分類を用いた日常の研究の足かせになっていると考えられている。これらの精神科医が意中に抱いているその精神病は,一般に痛烈な精神的ストレスへの反応として起るが,これらの病者の精神的ストレスに対する抵抗を減弱させるような身体疾患,あるいは身体的虚弱を背景にしてもしばしば起る,主として本質的に急性なものである。病者は妄想とか幻覚を伴う重篤で激しい症状や,症例によっては意識障害を伴う非常な情緒的混乱を示すかもしれない。しかしながら,これらの精神病の持続期間は短いという一般的傾向があり,類似の誘発状況が再起した際には,再発は起るが完全に回復するのが一般的である。ICDは主として西洋精神医学の,明確に言えば主にアングロ・サクソン精神医学の成果であることは事実である。しかし,西洋精神医学の要求にあった分類は,世界の他地域での精神障害には適当でないかもしれない。国際分類は,発展途上国の急速に発達する精神医学の要求にも合わせるべきであることが明白となった。従って,既に述べた型の急性精神病がICD内に特別なクラスを要求される程,頻度の高いものか否かを確認する目的をもつ国際研究をWHOが計画することは本来の業務である。
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