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I.はじめに
初老期および老年期の精神障害として,以前から記憶や見当識の障害を主とする痴呆,感情障害としての抑うつ状態,心気状態,あるいは不安状態などが注目され,これらに関する数多くの臨床的,病理学的,生化学的,心理学的研究がなされてきたが,意識障害としてのせん妄状態もみすごすごとのできない重要な部分を占めている。それは以下のごときいくつかの理由によるものと思われる。すなわち,
(1)この錯覚,幻覚,興奮などを伴いやすい特異な状態が,とくに初老期以後に起こりやすいこと。
(2)短時間に挿間性,発作性に生じることが多く,かつ動揺性にとむためみおとされやすく,また通常の傾眠—嗜眠—昏睡といういわば意識の深さのみの障害とは異なり,ときには意識が変容しているかどうかわかりにくいこと。
(3)家の中や病室,病棟内を歩きまわり,夜間眠らずに騒ぎ,結局,精神科への入院が必要となることが多いが,しばしばなんらかの身体的障害を有しているため,その治療にあたっては臨床各科の密接な協力が不可欠であること。
(4)早期に適切な治療を行なうことにより平常に回復することの多い,いわば機能性,一過性の精神障害であるが,しかしその発見と治療が遅れると生命の予後さえ悪く,しばしば死亡すること。
などを挙げることができる。
このように臨床の実際場面で種々の重要な問題を有しているたあ,今回,著者は臨床各科を有する総病床数451の総合病院に併設された精神神経科の役割の1つとして,年齢的になんらかの身体的障害を有していることの多い高齢患者にみられたせん妄状態に注目し,その特徴や問題点をみながら,今後の総合病院における精神科のあり方について考えてみた。
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