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I.はじめに
近来,(殊に単相性)内因性うつ病の病前人格,心的力動,および発病状況等に関する知見には,うつ病の本態への理解を深めるうえでも多くのすぐれた研究報告のあることは,すでに木村1)の展望にもみるとおりである。
ただ,せっかくのこれらの蓄積もその治療的応用の点になると,抗うつ剤の画期的な進歩,開発の前にまだまだ影がうすく,今後に課題を残す形になっている。
この背景には,"病相期そのものの加療には,その病態の性質上どうしても薬物をはじめとする生物学的治療に依存せざるを得ず,かつ相応の効果をおさめること"さらに"病相期以外は原則的に正常の姿に戻り(遷延,慢性例は別),その際には医療的関与を必ずしも必要としないこと"をはじめ後述するような諸要因にはばまれ,治療者,被治療者ともどもに治療的関心が病相期に絞られがちという事情もあずかっているようである。
更に,数回以上にわたり毎回等間隔で病相の訪れるタイプに出会うと,うつ病自体に内在する周期性という自律的変化の視点に先入され,治療的にもより生物学的方法に力点がおかれがちになる(生物学的治療接近を軽視しているわけでないことを念のため断わっておく)。
今回,たまたま毎年の定期的なうつ状態の陥りに悩む中年患者に出会い,病相〜回復後を通じ2年近く治療的関与を継続し,そのより本質的な治療局面にまで展開する機会を得たので報告する。
殊に中年期以後のうつ病者においてこのような実践はなかなかの困難を伴い,むしろ稀でもあろうが,原理的にはすでに予想されていることを具体的に確認し得,また治療的関与を通じ病前人格の病理的側面が一層浮き彫りにされ,うつ病相もその延長線上の一コマとして把握する観点に近づき得たのである。
なお,病相期以外の治療場面では抗うつ剤その他の薬物は使用せず,かつ精神療法においては,その本来のあり方に即し,あくまでも当人の自発自展を尊重し,その目標にそった歩みの方向を見失わない程度に適宜助言するといった態度で臨んできた。
またより事実に即するため患者からの報告を何よりも素材とし,それ故本稿もできる限り本人の言葉で語るよう心がけている。この点からも本報告は筆者と患者との共同作業の結果であることをあらかじめ断わっておく。
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