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I.はじめに
青春期は,精神分裂症をはじめとする諸種精神障害の好発時期のひとつである。この時期に発病する精神障害の一類型として,さきにわれわれは,以下に述べるような特徴を有する症例群を取り上げ,その臨床的考察を行なった4)。この症例群は,これまで単純に,いわゆる精神分裂症の破瓜型に属すると診断されがちであったと考えられる。その特徴とは,以下のような諸点である。
病像は,「離人体験を主とする自我障害およびそれに密接な関連を有する異常体感」さらに能動性の低下,自覚的思考障害,閉鎖的生活などが主体をなす。そして精神分裂症一般に認められる被害・関係妄想,幻聴あるいは被影響体験などの出現が極めて少なく,仮に出現したとしてもごく一過性である。経過は慢性傾向が著しく,状態像は絶えず不安定である。しかし,慢性経過をとりながらも,いわゆる人格水準の著しい低下や感情面での著明な鈍麻などに至ることはごく稀である。以上のような病像と経過からみて少なくともこれを破瓜型分裂症と区別しておくことは臨床上有益であるとわれわれは考えた。疾病に対する病者の姿勢をみると,病者は比較的正しい洞察を有していて,表面的にはcontactもよく,治療意欲は持続的に保たれているものの,独断的・主観的に自己像を規定する傾向が強い。したがって,そのような病者のあり方が精神療法的接近には困難な問題を提供する場合が多い。これらの症例群の発症年齢の平均は18歳であった。病者の訴える異常体感は,これらの症例を特徴づける主症状の一つである。すなわち,狭義の体感異常(Düpre, P.)に属するものから,身体表象の障害として,あるいは神経症性心気症状と考えられるものまで広範囲のものが含まれており,執拗かつ持続的に訴えられる。この異常体感の性状は,全体的にみれば身体表象障害を基底としている。
すでに述べたように4),正しい身体表象は幼少時期の対人関係や家族を含めた社会的関わりの過程の中で形成され発展するものであり,いわば社会的経験に基づく身体機能であるともいえるであろう。ところが病者の養育状況や家庭環境には,病者の自己同一性確立が行なわれるにあたって著しく障害となるような,両親の役割りの欠陥,対人関係の病理性など種々の問題点が指摘される。このような生育歴を背景にして,病者の自己像の構造的脆弱性,自我解体に伴う精神的・社会的孤立,病者の関心の自己ならびに自己身体への集中傾向などが指摘され,そこに身体のあり方の変容への基盤がみられる。すなわち,ここには自我構造の脆弱性をもたらす状況と,身体表象障害を基底とする異常体感の由来や発生の素地が見出される。
このような前報告に引続き,本稿では,とくにこれらの症例における自我構造の特徴ならびに人格面の特徴についてロールシャッハ・テスト(以下ロ・テストと略記)を用いた検討を行なってみたい。
ロ・テストは現在行なわれている投影法人格検査の中で臨床的にとくに繁用されているテストであり,病者の心的機能やその方向性を捉える上で極めて実証的な手段であるといえる。自我心理学的および精神分析学的観点からも,自我発達の水準や自我機能などが質・量両面から把握されるところから,臨床精神病理学的研究の補助手段として有効なものであるといえる。このような点からみて,われわれの症例の人格特徴をより明確にし得るテスト方法としてロ・テストを用いることとした。
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