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Ⅰ.緒言
慢性腎不全を中心にした腎疾患に対して,血液人工透析療法(以下透析と略す)が施行されるようになってから10数年を経た。この間,透析患者が直面する様々な精神心理学的問題にも早くから関心が持たれ,透析を受ける人の適応性の問題や透析下における心理的状態とその推移などをはじめ1),特殊な中枢神経症状として透析初期にみられる不均衡症状群disequilibrium syndromeや,長期透析後にみられる透析性脳症dialysis encephalopathy等の研究報告がなされてきた8)。
本邦においても,1972年の第9回透析治療学会で,主な演題の一つとして精神障害が選ばれ,神経症傾向を示すもの,イライラ症状,せん妄あるいは錯乱興奮状態を来した症例,自殺例,構語障害例などの症例報告や,心理テストの結果など19の演題が報告されている。他には詫摩らによるせん妄を主とした3症例の報告10)や,平沢らの自験例を中心にした解説があり6),浅井らによる詳細な総説もみられる3,4)。
しかし透析療法の歴史が未だ浅いせいもあってか,これら内外の報告の多くは少数例を対象にした研究調査であり,特に精神症状については個々の症例報告が主となっていて,長期透析患者を含めた多数例に対しての統計的,総合的な研究は乏しいようである。
透析下における患者の精神心理的側面は,尿毒症としての身体的精神的な背景によって影響を受けるであろうことは勿論のこと,人工透析による生命の維持という心身両面にわたる特殊な状況下で構成されていることから,発来する精神症状も状態像や原因がきわめて複雑なものになることが予想される。
こうした点をふまえ,今回は比較的多数の透析患者を対象に,透析に関係して発来する,特に精神科的治療を必要とする程度の精神障害についてその特徴や心理的身体的背景要素ならびに発生頻度や予後などについての調査を行なったので,その結果を報告し,併せて透析下における精神症状の発生機制について若干の考察を加える。
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