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I.はじめに
最近,精神病院入院患者の原因不明の死亡について論議が高まってきている。とくに,いわゆる突然死の問題が取り上げられ,それが,精神安定剤との関連で問題視されてきているように思われる。
精神病院入院患者に,現在までの臨床知識では理解できないような死亡がみられることは,われわれも日常体験しているところであり,この問題の解明のため,昭和39年以来,当院においては,死亡患者に対し,出来得る限り剖検を行ない,その原因の解明に努めてきた。
そして,これらの患者のなかで,ほぼ共通の臨床的・病理的パターンを示す幾例かの症例が見出され,それが精神科薬物療法との関連が疑われることより,1969年,古川1)が,精神病院入院患者の薬潰けの弊害の一つとして,病院精神医学会において発表した。そのなかで,精神病院入院患者にみられる腸管麻痺(当時,本症についての検索もすすんでおらず,この名称を便宜的に使用したが,麻痺性イレウスの範疇に属するものと思われるので,以下,麻痺性イレウスに統一する)について,概説的な発表を行なった。次いで,著者ら2)も,これら麻痺性イレウスを含む各種消化器障害について報告した。
今回の精神科薬物治療指針の改正に伴い,phenothiazine,butyrophenone両系薬剤の使用上の注意の項に,副作用として,麻痺性イレウスについての記載が加えられたにもかかわらず,本邦において,本疾患に対する報告は,ほとんどみられていない。そのため,当院において,昭和35年より,47年までに発症した17例の麻痺性イレウス患者について,以下,その臨床・病理につき検討し,原因・予防・治療について考察し,このような不幸な転帰に患者が陥ることを防ぐ一助にしたいと思う。
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