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I.はじめに
遅発性ジスキネジア7)は長期間の向精神薬服用によって生じてくる,不随意運動症状群で,口唇,舌,頬,下顎などの咀嚼,吸畷様運動を主とするが,その他に,四肢,躯幹をはじめ,身体各部に出現し得るものである。本症状群は40歳以上の中・高齢者に生じやすく,その発生頻度は,精神病院入院患者の10〜30%7)あるいは5〜20%4)と報告されている。
本症状の発生機序はまだよく分かっていないがドーパミン系ニューロンの活動亢進,コリン系ニューロンの活動減退あるいは両系のバランスの乱れが推定されている6)。そして,dopamine deppleting agentsであるreserpineやdopamine blocking agentsであるbutyrophenoneやphenothiazineが治療に試みられた8)。これらは投与初期には,一時的に,ジスキネジアを抑制するが,遅発性ジスキネジアはこれらの薬剤の長期投与によって生じてきたものであり,投与を続けるうちに次第に抑制効果が失われ,むしろジスキネジアは増悪し,その抑制のためには更に大量の薬物を要するという悪循環におちいる8)。
遅発性ジスキネジアはいったん生じると,向精神薬を中止しても消失せず,非可逆的に持続するといわれている7)。しかし伊藤ら5)は遅発性ジスキネジアは,かならずしも非可逆的かつ不変なものではなく,その治療法としては神経遮断剤の中断が最良の方法であると主張しているが,現実には精神症状が増悪するために薬物を中断できない患者が大勢いること,また,薬物中断後,幸いにも遅発性ジスキネジアが回復するにしても,回復までには長年月を要している1,10)。
風祭7)は1971年の総説において,遅発性ジスキネジアの治療は,その予防とともに現代の精神薬理学における1つの緊急な課題であると指摘している。しかし,現在までのところ,満足すべき効果をあげた治療法の報告はない。したがって,迅速に効果が発現し,しかも長期間の服用が可能な治療薬剤の出現が望まれるわけである。
ところで最近抗てんかん剤として使用されるようになったsodium valproate(以下S. V.)には中枢神経系のGABAレベルを上昇させる作用がある3)。また,GABAは黒質—線状体のドーパミンの作用に関連性のあることが示され15),しかもGABAは基本的には抑制的な作用を持っている。そこで,われわれは遅発性ジスキネジアを有する患者に12週間の長期間にわたって,S. V. を投与し,その臨床効果を観察した。
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