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Philippe Chaslin(1857-1923)はParis生まれの精神科医で,1899年以後ParisのBicêtre病院の,1910年以後la Salpêtrèreの医長Chef deserviceを勤めた。著書は後に触れる精神錯乱の主著La confusion mentale primitive(Asselin etHouzeau,Paris,1895)のほか,教科書Elémentsde séméiologie et clinique mentales(Asselin etHouzeau,Paris,1912)その他多数の論文があり,否定妄想délire de négationなどの業績を残した同僚のJ. Séglas(1856-1939),夢幻症onirisme oudélire oniriqueを提唱しconfusion mentaleの概念と結びつけたBordeaux大学のE. Régis(1855-1918),慢性幻覚性精神病を論じたParis大学のG. Ballet(1853-1916)などと同じ世代に属する。
ここに抄訳した論文は,冒頭の原注によれば1892年8月Bloisで開かれた学会で,あらかじめ友人のSégiasが一読していた同題の小論文を発表したが参会者に十分理解されなかったことが契機となって執筆されたものであるが,今日フランス語圏の精神医学,殊にその症状論と疾病論において広く用いられている精神錯乱confusion mentale(以下c. m. と略)なる概念を確立したChaslinが,はじめてc. m. についての彼の見解を世に問うた著作として,また3年後にこれを更に拡充し若干の修正を加えて書かれた同題の彼の主著(1895)の基礎となったという意味でも重要な論文である。(精神)錯乱c.(m.)なる用語は本論文にも述べられているとおり,彼以前既にP. Delasiauve(1804-93)によって用いられてはいた(1861-65)し,類似の概念はJ. E. Esquirol(1772-1884)の急性痴呆démence aiguë(1814)以来フランス学派で存在していたにもかかわらず,当時優勢であったM. A. Morel(1809-73),J. J. V. Magnan(1835-1916)らの変質論のために忘却されてしまい,むしろドイツなどの諸外国で錯乱Verwirrtheitがさかんに議論され,その中からT. Meynert(1833-92)のアメンチアAmentia(1881-90)やS. S. Korsakoff(1854-1900)の精神病の概念(1889-92)がとり出されつつあった当時のフランスの学界に対するChaslinの不満と,国民主義的とすら言うべき生々しい意気込みが感じられる。
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