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今年の厚生省予算をみて目立つのは,救急医療が100億円の大台に乗り前年度の6倍強であるという部分である。患者のたらい廻しなどという世論の高まりに応じてのこととも思うが,本腰をいれた内容は,①初期救急体制,②広域救急情報システム,③第二次救急,④救命救急センター,⑤救急医学教育などの整備ないし充実であるという。この仕事は医務局所管で,精神衛生対策を受け持つ公衆衛生局のほうはといえば,これに匹敵する目新しいものは見当らない。この両者の予算の中で精神障害者の救急医療だけが除外されているのだが,それでは精神科ではその必要がないというのかとちょっとひがんでみたくもなってくる。なぜ精神病だけが救急医療の対象から除かれるのか不思議なことと思うのだが,近着の日本医師会雑誌(8月15日号)によれば,救急医療体制整備の具体案という厚生省側の説明が10項目並んでいて,その最後の10番目に「精神科救急は今後検討したい」とある。厚生省に常に批判的である日医でも,どうも精神科だけは別系統で考えようということらしい。それにしても,精神病対策には精神衛生法があってその中の緊急入院制度で救急医療は賄われていると考える専門家は恐らく1人もいないだろう。確かに法的には精神科の特殊性がある。けれども急病救急と救命救急の2つながら身体病と同格であることもまた間違いのない事実なのである。そして救急医療が当面する医療の大きな課題であるとすれば,精神のそれも,ここで少しく掘り下げてみる必要があると思う。
昭和40年の衛生法改正以後の医療の流れをみると,(1)まず措置患者の減少であるが,昨年末全国総数59,793人(21.5%)で45年ピーク時の76,532人(30.6%)以降確実に減じている。もっともベッド増がその少し前の時期から急ピッチで進んだので,措置率のピークは39年37.5%でそれ以来の弓なりの下降を示している。(2)もう1つは精神衛生鑑定で,これも法23条(一般から申請)の大幅減少を示しているが,仔細にみると,大都市(東京)では24条(警察官通報)が地方に比べ非常に高い比率であることがわかり,これが大都市救急医療対策の一面をのぞかせている。措置入院の矛盾については本欄(1975年3月号)で渡辺栄市院長が論述された通りだが,どうやらこの矛盾の解ける兆しはみえて来たようである。このような措置の実情をまず取り上げるのは,もちろんこれが精神科救急医療の基本問題の1つだからである。(3)そこでわれわれは誰しも措置制度の矛盾をなくし,広く開放制のもとに病院のリハビリテーションを推進し,アフタ・ケアが徹底することを願っている。これによって患者の危機的状況を未然に防ぎ(つまり救急医療の数を減らし),予防を第一義とする精神衛生対策が出来上がるのである。(4)しかし残念だが,いつも予防的救急医療で事が済むとは限らない。現実の急病救急にはどうしても訪問,往診という機動性が要求される。すぐに病院へというのではなくいろいろな社会資源の活用も必要となるだろう。そして最後に収容と判定された救急患者は,当然不採算を承知で人員,設備を整えた公的医療機関,それも総合病院の精神科ベッドへという順序となり,それから第二次医療機関へと移行する図式が理想である。
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