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I.はじめに
精神障害回復者の社会復帰活動の一環として職業的技能訓練が必要であることは,ここにあらためて述べるまでもない。問題は,わが国の社会的医療的現状の中で,それをいかにして実現するかにある。山田は,昭和49年に,回復者就労援助に関する論文1)の中で,次のように書いた。「苦労して外勤制度をくぐり抜け,祈るような気持で病院から送り出しても,退院していざ家庭から就労すると,つぶされてしまう者,ウダツのあがらない下積みの職種から抜け出せない者がどんなに多いことか。私共はそれを政治の責任だ,国が悪いのだと診察室でボヤイているだけでよいのだろうか。この命題を誰がいつ解決してくれるのだろうか」。回復者が社会的に自立する能力を身につけること,自分の職業に自信と誇りを持てるようにすること。私共はそれを助けるために診察室から出なければならないのである。
昭和47年8月,私共は社会福祉法人新樹会,創造印刷を設立した。その定款第1章第1条(目的)には,「この社会福祉法人は,援護,育成または厚生の措置を要する者などに対し,その独立心をそこなうことなく,正常な社会人として生活することができるように援助することを目的として,次の社会福祉事業を行なう。(1)第一種社会福祉事業(イ)授産施設の設置経営」とある。ところでわが国の社会福祉のための公私の授産施設は,身体障害者,精神薄弱者に対しては,それそれすでに100余および70余ヵ所(昭和48年現在)2)が存在し,民間施設に対する施設整備の補助金や措置費負担などの公的援助も,福祉法によって一応整っているが,精神障害に対してはいまだ福祉法すらなく,創造印刷の法人認可も「その他」の項目でようやく扱われた有様であった。そしてわが国の精神障害回復者のための授産施設の数は,本特集で佐々木の述べているように,現在数えるほどしか存在しない。このような現状は,精神障害回復者に就労援助の必要がないというよりも,関係者が予測される困難の前にたじろいでいて,手を出しかねているという事情によることが多いと思われる。
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