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I.はじめに
Gilles de la Tourette's syndromeは最初Itard(1825)によって報告され,次いでGilles de la Tourette9)(1885)によって詳細に検討され,彼の名にちなんでこの症候名がつけられている。典型的な症状としては,次のようなほぼ一定の経過をたどることが多くの研究者によって指摘されている。
4歳から10歳までに身体の上半身,顔,肩,腕のチック症状が現れ,後には,下半身に広がる。また歯ぎしり,舌を突き出すといった徴候もみられる。この頃より,不随意的な叫び声をあげはじめ,意味不明の単語から,反響言語(echolalia),反響動作(echokinesia)を伴うようになり,最終的には強迫性をもった汚言,糞語(coprolalia)にまで至る。Fernando8)(1967)の診断基準によれば,(1)発症が16歳以下の幼年期であること,(2)多発性の身体的チックを伴うこと,(3)不随意的発声がcoprolaliaにまで至ることの3点である。
病因論については,Gilles de la Tourette以来多くの研究者が推定してきたが,いまだに一致した見解には到達していない23)。器質因説24),心理因説1,2,4,19))があるが,多くの研究者は折衷説をとっている。器質因を主張し,脳波異常を認めた研究者でも,脳波の異常が必ずしも本症候を説明するものではないことを認めている7,23)。心因論をとる研究者が一致して主張するのは,抑圧された性,攻撃衝動と,両親との関係の歪みである1〜5,8,19,20,22,23)。しかし,心理因説をとる多くの研究者も,根底に器質的劣性を想定している8,14,15,20,22,23)。また,通常の心因性チックと本症候群との関係も未整理のまま残されている。
Lucas23)は,多くの研究者がこの症候群に強い関心を払うのは,その症状の特異性や患者自身の測り知れない苦痛だけでなく,この症状固有の心理力動,特に攻撃衝動とそれに対する防衛機制の在り方が極めて明瞭な形で観察できる点にある,と述べており,精神医学的にも種々の興味ある問題を秘めていると考えられる。
Lucas23)によると欧米では,1960年代の10年間に約50の報告論文と100の症例が発表されている。日本においても,いくつかの症例報告がなされているが13,14,20,21,25,27),遊戯治療例はみられないように思う。われわれは,当教室において,本症候群と診断された一少年の遊戯治療を経験したのでここに報告し,若干の考察を行ないたいと考える。
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