シンポジウム 大都市の病理と精神障害—東京都精神医学総合研究所第2回シンポジウムから
都市化と人間
霜山 徳爾
1
1上智大学文学部心理学科
pp.480-485
発行日 1976年5月15日
Published Date 1976/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202479
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大都市の精神病理学というものを考察するにあたって,あらかじめ判然としておかねばならない点がある。それは人間の生存にとって文明は何を意味しているのか,文明は人間の存在様式にとってどうしてもなくてはならない本質的な条件なのか,という問題である。それを追究していくと,自然と文明との関係,そしてそれらと人間との生きたかかわりはどうなっているのか,という問いになるのである。
現代のマスコミに共通しているセンチメンタリズムによって,公害とか,環境保全とかいう言葉から「自然」というものに美しい幻想が投げかけられている。即ち,そこでは人間が無垢の,素朴で汚濁を知らないかのような太古の時代が想像されたり,或いはそこまでいかないにしても,未開社会の自由な平和を空想したりする。文明とは人間のつくり出したものであって,もともと人間性には有害な,或いはたとえそれほどでないにしても,真の人間性とかかわりのないものと思われてきている。しかしこれこそマスコミ的な,ものの裏面を省りみない一面性強調の典型である。人間で文明を知らない自然児などいうのは空想の生み出したものに他ならない。また未開社会ほどある意味では不自然な強制が通用していることは多くの文化人類学者の示す通りである。
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