紹介
新中国の精神医療—その考え方
林 茂美
1
1岐阜大学医学部神経精神医学教室
pp.215-220
発行日 1976年2月15日
Published Date 1976/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202449
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Ⅰ.新旧中国の比較
新中国の精神医療を理解するにはまず旧中国の状態を知らねばならない。
1949年,中国が解放される以前の旧社会には人民が圧迫され,正常な労働者さえも続々餓死していたのであるから,当然その頃は精神病患者の治療などは考えられもしなかった。多くの精神病者は野山をさまよい凍死,餓死し,また唯心主義の影響で精神病を患らうのは"神様の思召し""狐つき""天罰"だとし,その病人の家族ですらやむなく病人を人間世界から見捨てざるをえなかった。旧中国にもいくつかの精神病院(瘋人院)はあったがそれは金持の子弟のものであって,病室には等級があり,貧しい労働者の子弟がもし瘋人院に入院できたとしても生きて退院することはほとんどなかった。瘋人院の庭には刑具があり鉄鎖で木に括られている患者が何人か居り,女の患者は自分の長く伸ばした三つあみの髪で木に括られていた。食事時がくると投げ込むように運ばれて来た窩頭(とうもろこしで作られた主食)が躁病患者の手に奪い取られて,またたく間に消えさり,自閉鈍麻の分裂病者やうつ病患者はその窩頭を手にすることさえできなかった。その頃は専門知識のある医師,看護婦はごく少数で,看手と呼ばれ門番に似た人々がその瘋人院の門を見張っていたにすぎなかった。
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