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我々の研究所が,その開設を記念するシンポジウムの第2回目を迎えて「大都市の病理と精神障害」というテーマを選んだ所以は,我々がこのテーマを,時熟したものと考えたからではなく,むしろこのテーマが急速かつ深刻に重大になってきており,加えて全世界的関心事になっていながら,しかも我々自身,この問題にどう取り組んでいったらいいのか,主題的にも方法論的にも模索中であったからである。従って5名のシンポジストにお願いするに際しても,我々の側に一定の主題とか狙いがあって,それに沿ってお話いただくというようなことでなく,むしろ「この膨大かつ不明確なテーマについて,どのような迫り方でも結構だから,何か我々に主題的ないし方法論的に示唆を与えていただければ結構です」といった調子でお願いした次第である。省みるにこのようなお願いの仕方は,「何か得られるものがあれば,得てやろう」という失礼な態度と言われても致し方なく,また依頼された側からすれば,何をどう話したらいいか漠然としていて,最も困る依頼のされ方であったにちがいない。にもかかわらず,5名の先生方は一人のこらずご快諾下さり,かつ我々の希望を十分に汲んで御自分の考えをお話いただき,このシンポジウムを実り豊かなものにして下さった。
とはいえ,我々は5名の先生方を無批判に選んだというわけではない。むしろ主題的にも方法論的にも模索中である我々には,ともかく「都市病理と精神障害」というテーマについて今までに仕事をしてこられた方々を選び出すことが先決問題であり,また我々にとって可能な仕事は,こうして数え上げた先生方の業績を知ることであった。またこの作業をとおして,お話いただく順序も考えたわけである。
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