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研究と報告
対人恐怖症における愛と倫理(その5—最終回)—パラノイア問題
Eros and Ethos in the Case of Anthropophobic Patients, Part 5 : The Problem of Paranoia
内沼 幸雄
1
Yukio Uchinuma
1
1帝京大学医学部精神神経科
1Dept. of Psychiatry & Neurology, Teikyo Univ. School of Med.
pp.473-489
発行日 1974年5月15日
Published Date 1974/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202177
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ニーチェの病跡について,これまでの報告で取り上げた研究も含めてその診断をあげると,進行麻痺,薬物中毒,精神分裂病,躁うつ病,パラノイア,神経症,精神病質と,精神医学疾病分類のほぼ主たるものが網羅されている32)。このうち進行麻痺説が最も有力と一般には受けとられているが,少なくとも1888年末以前に関しては,先にあげた5人の代表的見解のうち3人のそれは否定的見解に傾いており,またすでに論じたことから明らかなように,残りの2人の論者の説もきわめて根拠薄弱と見なしてよさそうである。さらにまた1888年末の急激な精神的崩壊に関しても,その診断の根拠を今の時点から振り返って検討してみれば,それが確定診断でないということは,現代精神医学の常識に属する事柄である。確実なことは,ヤスパースが論じているように,脳器質的疾患であったということだけである。薬物中毒については,少なくとも禁断症状を含めた慢性中毒を思わせる積極的な証拠は何もない。問題はその他の診断に関してである。同じ対象を論じながら,あまりに見解が分かれるようでは,精神医学の鼎の軽重を問われるというものである。
病跡学的研究でしばしば診断が分かれるのは何故か。対象が特殊なためなのか,それとも対象を扱う精神医学に問題があるのか。対象に責任を転嫁することはいともたやすいことであるが,その判断には慎重な熟慮を必要とする。そもそも病跡学的対象の特殊性とは何なのか。
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