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精神医学的遺伝学は,遺伝学全般におけるように3つの平面で研究することができよう。それは,分子,染色体,および表現型のレベルである。第1のものは各種酵素欠損による代謝障害としてとらえられるもので,このような生化学的に説明される遺伝病が次第に明らかにされるとともに数が増え,Fuhrmann(1965)は99の遺伝病をあげている。第2の染色体の異常は言うまでもなく染色体の過剰や,その変体によるもので,形成異常を伴う知能障害として知られている。第3は,まだ以上のような障害を明らかにし得ないためにただ症状としての現象面に目が向けられているもので,いわゆる内因性精神病や真性の精神薄弱および神経症,性格異常などをあげることができるであろう。このような観点に立つ場合問題になるのはもちろん精神病理学的諸症状であるが,周知のように素因か環境かの二者択一的な考え方は古く,これらの相互作用が今日人間の遺伝研究の前面に押し出されていることである。また精神医学的遺伝学において難しいのは症状そのものが固定したものでなく動揺性を持っていることでもある。
ところで,分裂病における双生児研究で一卵性双生児に高い一致率のみられるのは遺伝論の支えになっているものであるが,この一致率に関しても,①調査方法の相違,②診断基準の相違,③実際上の相違などによって異なった数値があげられる。①について古い報告の一致率が概して高いのは対象になったのが精神病院入院例であったことにもよるものであり,②に関しては,アメリカとヨーロッパのみならず各国各学派間の相違があげられる。しかしまた,双生児にみられる精神病がまったく生き写しの如く同じであるというのはむしろ夢物語りに近いことで,分裂病の素因があっても明らかに異なった表現をとり得ることを考えるべきである。といってもすべての神経症が仮面を被った分裂病というわけではないが。③については異種遺伝子性が問題になるが,これも臨床的下位群を想定するのではなく,すべての分裂病を含んでのものであろう。分裂病,躁うつ病などがそれぞれ単一の疾患から成るのではないことはかなり確かなようで,異種遺伝子性同様多遺伝子性も考えられるがこれらによってすべてを説明することはできず,一卵性双生児での不一致所見からしても少なくとも遺伝子以外の何かが1つの役割を演じているのであろう。
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