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I.はじめに
さまざまな身体の異常感覚を主症状とする慢性精神疾患に関しては,近年わが国においても,セネストパチーの標題のもとに,保崎1),小池2),吉松3),小見山4)らの報告がある。以下に記載する病像は,やはり身体の異常感覚を主症状とはするが,触覚体験がその症状の中心をなし,従来“疥癬恐怖症または寄生虫恐怖症(Acarophobie,Parasitophobie)”(Thibierge,1894)5),“限局性心気症(zirkumskripte Hypochondrie)”(Schwarz,1929)6),“初老期皮膚寄生虫妄想(präseniler Dermatozoenwahn)”(Ekbom,1938)7),“慢性幻触症(chronische taktile Halluzinose)”(Bers u. Conrad,1954)8),“触覚性妄想幻覚症(taktile Wahnhalluzinose)”(Bergmann,1957)9)などと命名され,多くの報告者たちが一致して,ごく単一できわめて特徴的な病像であると強調しているものである。
その病像の特徴は,BersとConrad8)から抜萃要約すると「50歳前後の女性に多く,皮下や皮膚の表面に寄生している害虫について訴え,痒い,這っている,刺すなどと言う。患者は,いかに害虫に苦しめられているかについて,確信に満ちながらきわめて詳しく医師に報告する。多くの場合,医師を訪れる前に,患者自身で精力的に自家療法を試みている。医師は特別な所見を見出すことができず,その危惧が根拠のないものであることを納得させようとするが,患者は自分の意見に固執し訂正することがない。しかし患者の多くが職務に従事し,他の点で精神病的なものがないということは,害虫が存在するという揺るがし難い確信ときわめて対照的である」というものである。
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