- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
本書はドイツ精神病理学の俊英Wolfgang Blankenburgの最初の単行本である。既にまったくmonumentalといえる学位論文「妄想型分裂病の1例の現存在分析的研究」1)で注目をあびて登場したこの著者は今年43歳,最初Freiburg大学でHeidegger,Szilasi,Finkらについて哲学を修めた後,22歳で医学部に転じ,卒業後同大学のRuffinのもとで精神病理学を専攻し,Ruffnの退官後1968年Heidelbergに移つて以来v. BaeyerのもとでPrivatdozentとしてOberarztの職にある。彼の指導で毎学期行なわれる「精神医学の現象学的・人間学的基礎問題」と題するSeminarは,その水準の高さと,内外の話題作を取上げる幅広さ(最近ではとくにLacan,Foucault,Laingなどが中心的話題になった)とですこぶる評判が高い。各種の学会においても彼の講演はひときわ格調が高く,不毛といわれるドイツ精神病理学の期待を一身に集めている観がある。
ここに紹介する書物の最大の特徴は,分裂病者の世界とか世界内存在とかを開示するのにあたってその妄想体験にまったく拠所を求めていない点にある。従来のこの種の研究は,もっぱら患者の妄想体験を通じての「分裂病的なるもの」の考察に偏っていた。しかし,それは妄想を有しない分裂病者についても捉えられるものでなければならぬはずである。本書の考察はこのような,一般にHebephrenieもしくはSchizophrenia simplexと呼ばれている患者に向けられ,これに応じて本書の副題も「症状に乏しい分裂病の精神病理学への一寄与」となっている(I)。
Copyright © 1972, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.