特別論文 精神医学の基本問題—精神病と神経症の構造論の展望
第16章 H・S・サリバンとE・ミンコフスキーの精神分裂病論
内村 祐之
1,2
1東京大学
2財団法人神経研究所
pp.1202-1211
発行日 1971年12月15日
Published Date 1971/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201836
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精神分裂病の精神力動論
神経症の発生と症状形成とにとって,「精神力動」が第1の問題となることは,すでに古くから考えられていたが,この問題を深く掘り下げて,無意識界の存在を大きな前提とした「深層心理学」の諸概念を打ち立て,これを学界の一大潮流とした功績者はフロイトである。しかし,ここに,同じく精神分析ではあるが,欲動または本能という生物学的観点をあまりに重視するフロイトの立場を容認することができず,そのためにフロイトから離脱するにいたった1群があった。これらの人々によって新しい精神分析が提唱され,この傾向はことに第二次世界大戦の前後から顕著となって,いわゆる新フロイト派が形成されるに至った経緯は,前章のアドラー及び新フロイト派の紹介の項で述べた通りである。
このように,精神分析学者の間でも意見の相違は大きかったが,しかし彼らに一致した1つの傾向は存続し,それは現代の精神医学界で1つの大きな流れをなしているように見える。その傾向とは,一方は,神経症の経験から得た「精神力動」的見地を,ひろく一般人格(パーソナリティー)の形成の理論にまで当てはめようとする傾向であり,もう一方は,この見地を重い精神病像全体の構成の説明にまで拡大しようとする傾向である。つまり深層心理学的の精神力動をもって,精神生活のすべてを説明しようとする傾向である。
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