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I.はじめに
躁うつ病の生化学的研究は最近めざましいものがあり,未だに原因にせまるような成果はあがっていないが,非常に多くの研究業績が発表された。ここではすべての研究について展望することができないので,比較的注目を集めている分野を選択して述べることにする。
所見を述べる前に,多くの文献を読んで気づくことは,研究対象としての躁うつ病の見方が,研究者によって異なることである。原因は不明であっても,単一の原因に基づいて起こると予想する立場と,治療に対する効果が患者により異なり,症状その他の分析によっても,とても単一疾患とは考えられないので,現在のところ症状群として取り扱おうとする立場があり,どちらかというと後者の立場が多いようである。もし症状群であるとすれば,ただばく然と患者を集めて,ある物質変化を検査したとしても,一定の結果が出るかどうか疑わしい。今まで報告された研究結果に関しても,同一方法を用いながら全く逆の結果が報告されていることがある。その理由の一部には対象の選択方法の違いが関係していると思われる。したがって対象に関しては,年齢,性別,社会的背景ばかりでなく,症状上の特徴も明瞭に示されなければならない。症状の記載に関して,最近の報告では薬物の効果判定用の評価尺度表が用いられる傾向が強い。これはある程度症状の種類程度を示しうる利点はあるが,とかくそれぞれの研究者が独自の評価表で表現するために,他の研究者が発表している対象とのあいだに,共通点を見出すのに時間を要し,しかも内容の重点の置き方によっては,同じ内因性うつ病と表現されても,疑問を感じさせるものもある。少しの欠点があるにしても,比較的多くの人が用いている評価表を用いて表現すれば,対象がほぼ類似かいなかの判断がつきやすく,理解しやすい。最近は軽症者が多く来院するのでことに注意を要する1)。ともかく,対象はできるだけ典型的症例を選ぶのがよいと思われる。また,単に横断的診断に止まらず,経過型を考慮して発病年齢により早発群,遅発群などに分け,間歇期の長さによって持続型,頻発型,周期型,間歇型のように分けて整理し2),誘因の有無,病前性格まで考慮し,できるだけそれらの条件を一定にして,近似のものについて検査し,しかも同一患者について縦断的に病期,回復期,間歇期の検査結果がそろえば,病態がより詳細に把握されると思われる。現在は巧をあせるのか,あるいは研究資金獲得の関係からか,こまぎれの研究結果が発表されることが多く,第2報で第1報の結果を否定するものがあったりして,何が真相かつかみにくい場合がある。注意して文献に接しなければならない。
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