Japanese
English
研究と報告
病的罪責感と宗教の治療的効果
Pathologic Guilt Feelings and Therapeutic Effect of Religions
稲垣 卓
1
Takashi Inagaki
1
1島根県立湖陵病院
1Shimane Prefectural Mental Hospital "Koryo"
pp.873-878
発行日 1971年9月15日
Published Date 1971/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201799
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強迫症状の背後に,宗教が関与する抑圧された罪責感が見出されることは少なくない。また,その場合には治療の困難な場合が多い。
本論文では,仏教僧侶の家庭に育った2例およびキリスト教伝道者の家庭に育った1例の計3例の強迫症状をもつ患者に行なった精神療法の経過の概略を述べるとともに,患者の信仰に根差す抑圧された敵意と罪責感について考察し,ついでそのような宗教的罪責感に対する治療の方法について論じた。
3症例はいずれも,敵意と罪責感がからみ合って相互拮抗的な関係にあり,両者ともに本当の意味では認識されていなかった。このような場合に宗教的罪責感を無視して治療を行なうことは適切ではない。しかし,患者自ら赦されないと信じている罪を洞察させることは容易でなく,また罪を直視した場合には深い絶望に陥る危険も大きい。
このときもし,患者の信仰する宗教に「赦し」の思想が存するならば,信仰を罪責感を強めるものとして排斥するのではなく,患者の宗教が元来もっているにもかかわらず患者が見失っていた「赦し」に注目するように配慮しながら精神療法を進めるのがよい。それによって,患者を絶望に陥らせることなく自己の罪責感を洞察させることができる。
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