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Ⅰ.はしがき
不眠はほとんどの精神障害者に,何らかの形で生ずる症状であるが,その型も,また不眠に対する患者の態度も一様ではない。現在,不眠症に対する研究は,主として,電気生理学的分野で行なわれ,周知の通り,すぐれた業績も多い。しかしその反面,一般社会人の睡眠状態・不眠を訴える者の頻度・精神障害者の不眠の型・不眠に対する当事者の態度などについては,まとまった報告は少ないようである。不眠は「時代の疾患」といわれるが,現代では身体的領域はもちろん,心理的領域にも,また社会的・文化的領域にも不眠を引き起こす要因はいたるところにひそんでいる。また,不眠のために薬物依存者やアルコール中毒者になったり,精神状態を悪化させて自殺に走る患者なども,臨床場面でしばしば経験するところである。この意味では,不眠の実態,その要因は早急に解明され,対策がたてられねばならない緊急の課題である。しかし,この論文では,まずその実態に焦点をあてたいと考えた。
不眠を社会精神医学的・精神衛生的に調査したものとしては,三好1)の官庁事務員を対象とした保健薬常用者についでの調査,加藤ら2)の薬物依存者に関する臨床統計的・疫学的研究などが散見される程度であるが,これらの研究も,その目的が睡眠状態ないしは不眠に焦点があてられていないため,睡眠ないしは不眠の実態については,いまだに未開の分野といわねばならない現状にある。この方面における業績の少ない理由は種々考えられるが,何よりもまず,調査対象の選択と研究方法に問題がひそむことであろう。この点を考慮して,われわれは精神障害者に対する対照者として,都内某銀行の従業員を選んだ。その第1の理由は,銀行員はいわゆる新中間層を代表する1つのグループとみなされるためであり,第2の理由は,この種の大きな組織では構成員をさらに健康群と内科疾患群に大別でき,同一グループ内で相互に比較検討しうると考えたためである。もちろん,厳密には,すべての職種から対照を選び,年齢・性別・社会階層などを考慮して睡眠の実態を大々的に調査することが理想的であるが,今回は種々の制約のため実施できず,その点は今後の研究にゆずることにした。また,精神障害者はすべて新患を選ぶことにした。これは,主訴にどれだけの割合で不眠が含まれるかを見る上で,現在では最も誤差の少ない方法であると考えたためである。調査方法としては,最初の試みでもあるところから,できる限り無理を避け,客観的な尺度を用いることに重点をおいた。
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