特集 医療危機と精神科医—第6回日本精神病理・精神療法学会 討論集会をめぐって
精神科医はいかにあるべきか—現代日本の精神科医療情勢のなかで考える
松本 雅彦
,
中山 宏太郎
,
新井 清
pp.88-95
発行日 1970年2月15日
Published Date 1970/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201566
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はじめに
1969年10月5・6日に開催された日本精神病理・精神療法学会第6回大会は,二日間にわたる討論集会に終始した。この討論集会を要請し実現するに至った事実経過についてはここでは省略したい。むしろ,この稿では,先に討論さるべく要請した基本的な問題提起を再びとりあげたいと考える。というのも,われわれの提起した問題が,二日間で討論し尽されるべきものとはもとより考えられないし,事実その間に論じ尽されたわけではなく,さらにこの討論がどのような意味を持ちえたかはむしろ今後のわれわれにかかっているのであり,ここで提示された課題は,各大学精神科の医師に,病院に,さらにひとりひとりの精神科医の内部で,半ば永続的に点検され,問い続けられなければならないものと考えるからである。
あらかじめ断っておきたいことではあるが,われわれはまずはじめに現代社会におけるイデオロギー的立場を先取するところから出発しているのではない。われわれは,精神病者を対象とする臨床の場において,素朴にできうるかぎり誠実な臨床医であろうとし,また学としての精神医学を創造的に発展させたいと願っている研究者にすぎない。この臨床と研究の行為を模索追求しようとすればするほど,われわれは自己の精神科医たる基盤——現実の諸条件に目をうばわれざるをえず,とりわけ病者のまなざしに答えようとするところから,答えうる医師たろうとするに必要不可避なところから問いを発せざるをえないのである。こう考えれば,われわれは決して問いを発しているのではなく,それぞれひとりひとりが問い問われているといいなおさなければならない。
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