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Ⅰ.はしがき
最近,わが国の医学会では,相当広い範囲にわたつて医学教育全般についての改革の問題が論議され,とくに大学卒業後の教育として専門医制度がとりあげられ,これに関して賛否両論のあるなかで,すでに一部の科では専門医ないし認定医制度として実施されたり,実施されようとしている。精神神経学会においても,すでに数年前から専門医制度が学会の一つの課題として討議がかさねられ,一部の大学や,病院では,一定のカリキュラムを組んで,専門医としての教育を行なつているとも聞いている。精神神経科は,他科に比して,戦後その範囲が急速に拡大し,分化したために,専門医の,いわゆる守備範囲をどのへんにおくかは他科以上にむずかしい問題かもしれない。しかし,それがむずかしいがゆえに,また拡大,分化したがゆえに,精神神経科医相互の疎通性を保持する意味においても,少なくとも臨床家としての必要欠くべからざる素養の範囲を定め,それを一定の課程に組んで教育する必要があるようにも思われる。
筆者は1963年9月から約2年間イタリアに留学し,その間の約8カ月間,ローマ大学神経精神病学教室で臨床にたずさわり,短い期間ではあつたが,専門医コースの学生と行動をともにしたこともある。いま,このような時機にあつて,こうした経験を含めて,イタリアにおける精神医学教育について語ることは,今後のわが国の新しい精神医学教育の方針を定めるうえに多少とも参考になるのではないかと考え,これを一つの資料として,提供しようと考えたしだいである。以下,イタリアの精神医学教育に関して,専門医コースを中心に述べるが,その前後の教育制度および,教育に関する事柄で在伊当時感じたこともおりまぜて述べてみたい。
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