Japanese
English
研究と報告
妄想形成過程の書簡に基づく追跡—敏感関係妄想を通じて
Ein Beitrag zur Analyse des Wahnbildungsvorgangs in einem sensitiven Beziehungswahn: Auf Grund von den Briefe
林 尚秀
1
,
佐々木 幸雄
1
Naohide Hayashi
1
,
Yukio Sasaki
1
1札幌医科大学神経精神医学教室
1Psychiatrisch-Neurologische Klinik der Medizinischen Universität Sapporo
pp.735-740
発行日 1967年10月15日
Published Date 1967/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201248
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Ⅰ.まえがき
妄想形成がある心因にもとづき,経時的に発展してきたと考えられる1症例について,昭和37年5月より昭和41年1月までの間に,東京で遊学中の娘に宛て書き送られた書簡49通にもとづき,その妄想形成過程を,とくに,Kretchmer, E. 1)の敏感関係妄想との関係において分析する。
書簡はその性質上,原則として秘密が確保されているため,ふつうの対話では容易に露呈されないような深い心的内面がその赤裸々な姿を現わす場合もけつして少なくないし,相当複雑微妙な感情や思想であつても,正確詳細な伝達手段としての役割をはたしうるものである。本症例のごとく,書簡が母娘間の閉鎖された関係に限定されている場合は,なおいつそう包み隠しのない心情の交流がなされるわけであるし,さらに日常の生活様式とか,性格特性,知的水準なども,おのずから察知しうるわけである。しかし医師・患者間の対話によつて得られた内容に比較した場合には,やはりKretchmer, E. も敏感関係妄想日本版序文で,医師が患者と幾時間も向かいあって,用心深く対話を進めることによつてのみ,パラノイア患者の内部状況についての理解を手にいれることができたと述べているごとく,特定の事象についての深いつつこんだ理解は不可能である。書簡がこの欠点を補いうる利点は,過去の体験,心的内部状況がその時点で正確に記載されていることである。
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