特集 精神療法における治癒機転
第63回日本精神神経学会総会シンポジウム
指定討論
阪本 健二
1
1京都大学精神科
pp.259-262
発行日 1967年4月15日
Published Date 1967/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201179
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
演者はご講演のなかで実に数多くの興味ある問題を提出しておられますので,私がかぎられた時間内でこれのすべてについて論じることは不可能であります。
そこでここでは,細部の議論ではなく,演者の示された症例における治癒機転を演者の表現をおかりして,つぎのように理解してみました。つまり,まず病者は治療の過程で多くは偶然的な契機によつて意識内容に飛躍的な変様を受けると演者は主張されます。そしてその主張を裏づけるべく森田療法により治療せられた症例を提出しておられます。ここでまず考えてみたいことは,この症例をも含めて一種の洞察の始まりとでもいうべき意識変様が多くの場合偶然によるとせられている点であります。病者の症状軽快の理由がしばしば治療者にとつて十分理解できないことのあるのは,われわれ精神療法家がよく経験することではありますが,それがただちにこの事実が偶然によることを意味するとは考えられません。むしろ,あらゆる精神療法家のもつ目的の一つは,病者の内部,その世界,治療者の内部,および治療者と病者の間に生じる具体的な現象に対して,自己の洞察を深めることではないかと思います。そして,このことこそ,われわれが精神療法家としての自らを律する最大の規準の一つでなければなりません。もつとも,そうは申しましても,それと同時に病者のなかに存在する治癒力に対する畏敬の念を失つてはならないことは当然のことでありますし,ての畏敬の念のために,ときには病者の洞察の発生が偶然のごとく感じられることのあるのも,事実でありましよう。
Copyright © 1967, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.