回顧と経験 わが歩みし精神医学の道・4
松沢病院の2年間
内村 祐之
1,2
1東京大学
2日本学士院
pp.867-873
発行日 1966年10月15日
Published Date 1966/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201085
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規格にはまつた,乾燥した大学の授業から放たれ,読み,また耳に聞いたことを,実地に検討し,身をもつて体験することのできる医局生活は,すばらしい魅力に満ちたものだつた。私は,むさぼるような気もちで,患者に接し,文献を読み,また脳の顕微鏡をのぞいた。それから以後の数年間は,まるで乾いたスポンジが音を立てて水を吸い込むをうな勢いで,新しい知識が身内に入り込んで来るのを感じた。それは,自由に学問のできる環境が与えてくれた特権であつたが,また,あの時代に医局生活に入つた者の幸連でもあつたと思う。
と言うのは,後に詳しく説明するが,この時代は,第一次大戦と,これに続く混乱が,ようやく収まつた時期に相当し,あたかも欝積した学問的エネルギーが一時に発散したかのように,有力な新研究が相次いで発表されたからである。今日から顧みても,この時代ほど,精神医学と神経病学との領域で,大きな転回点を画した時期を私は知らない。
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