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前回紹介した「流行病」はHippocratesその人を代表とするCos学派の症例集とみなされるが,今回はCnidos学派の文献から選んでみた。この学派の起源はおそらく前7世紀ごろにさかのぼるようで,前5世紀の中葉に隆盛期にはいり,Euryphon,Herodicosが同学派を代表する医家として知られている。クニドスはエーゲ海に突出した小アジアの小さな半島の都市で,コス島とロードス島の中間にあり,その地理的環境からしても東方諸国により近縁であり,同学派にはメソポタミヤ,インド医学あるいはエジプト医学などの古代医学の影響が強くみられるとい5。その疾病観,治療法などもCos学派とは対照的である。
Cos学派の代表的文献の1つに数えられる「急性疾患の養生法」(Ⅱερι σιαιτηζ οξεωυ)の中には「クニドス格言集」(κυιδιαι γυωμαι)―現存しない―に対するきびしい批判がみられる。それによると,彼らには症候論と予後に対する考慮がたらず,治療法も少数の薬剤を用いるのみで,より本質的な養生法(食餌療法)をかえりみることなく,その疾病分類はあまりにも人為的である旨の記載がある。確かにCnidos学派は疾病の分類に多くの関心をはらつたもののごとくで,Galenosの注訳によると,彼らは7種の胆汁障害,12種の膀胱障害,4種の腎臓病,4種の尿閉,3種の破傷風,4種の黄疸,3種の肺癆などを分けているという。本稿に紹介する「疾病」「内科疾患」などにもこれらの疾患の記載がみられる。その症状の記述には鋭い正確な観察も少なくないし,また詳細な治療法も並記されているが,全体としてはいささか形式的でrigidな感を免れず,また古代医学の原始性をとどめているかに思われる点がないでもない。この傾向は,疾病の分類よりも予後診断に重点をおき,薬物療法のみならず養生法をも重視し,つねに患者をば個体全体,気象状況などとの関連においてみよ5とするCos学派の疾病観とは鋭い対立をなしている。現代の言葉を用いて概括するならばCnidos学派がより静態的,局在的な見解をとるに反してCos学派はより力動的,全体的な立場に立つ,といえるでもあろう1)。
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