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Hippocratesの原典から精神医学にも関係のあるような部分を紹介してみたい。最初は「神聖病について」を訳してみることにする。てんかんに関する論述であるのはいうまでもないが,本篇は単に精神医学のみならず医学一般においてももつとも重要な文献の一つであろう。「ヒポクラテス全集」"Corpus Hippocraticum"というのはだいたい紀元前5世紀の後半から前4世紀の末葉にいたるまでの数十篇にのぼる医学的文献の集大成であるが,その中でも本篇はもつとも古く,440BC〜430 BCころのものではないかという説もあり,おそくとも420BC以前であろうとのことである。大Hippocrates自身の筆になることがほとんど確実とされているものに「予後」(προγυωστικον),「流行病I,III」(επιδημιαι α,γ),その他があるが,この「神聖病について」(περι ιερηδ νωυσσυ)もまた「空気,水,場所」(περι αερων υδατωντσπων)と並んで彼自身の著作であろうという見解が支配的である。これには異論もあるがいまはふれない。Hippocratesの生誕が460 BCころとされているから,本篇がもし彼の作でありその年代が上述のごとくであるとすれば,彼の比較的若い年代に書かれたことになる。
本篇は俗信,迷信に対する攻撃にはじまる。まずてんかんをば神聖病とみなしてこれを呪術的行為によつて治療せんとする当時の俗見に向かつて決然と論駁を加え,本病が他の疾病と同じく自然的起源を有するもので,遺伝,体質にもとづき,その原因が脳にあることを主張する。さらに粘液質と胆汁質の区別,粘液が脈管系に流入するために生ずる種々の発作型の記述,年齢や気候による影響,意識,思考をもたらす空気の役割,意識の媒介者としての脳など,種々興味ある論述があつたのち,最後にてんかんが決して不治の病でなく自然的,合理的手段により治癒せしめうることが示唆されている。
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