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I.はじめに
知覚性刺激によつててんかん発作が誘発されうることは古代ローマの医師Apuleiusの著書のなかに記載をみるという1)。これは反射性てんかん(reflex-epilepsy)ともいわれ,その刺激には触,痛,温,嗅,味,音,光などが知られている。なかでも視覚刺激(光)に対応しておこるてんかん発作は頻度が比較的高く,本邦では昔から「日でんかん」「水でんかん」と俗に伝えられてきたくらいであつた。
医学的記載としては1881年Gowers2)が明るい光で誘発されたけいれん発作の2例を報告したのが最初であつたが,ことに間歇的な光刺激がけいれんを誘発しやすいことに注目したのは1929年Holmes3)であつた。
その後,多くの研究者たちはてんかん患者群より光ことに間歇的閃光に敏感な1群をみいだしphotogenic epilepsy(光原性てんかん)なる臨床的概念に統一した。
初期の報告は木の間からもれる日光光線や明るい窓の反射,雪面または水面などの反射光などで発作が誘発された例が報告されているが,生活が複雑になつてきた現在,この種の閃光刺激の新しいかたちが増加してきており,映両,テレビ,ネオン,螢光灯などがそれにあたる。TV-epilepsy1)とよばれて報告される症例は外国ではかなりの数にのぼつている。
一方,最近臨床脳波学においても1949年にWalter4)らが間歇光線で網膜を断続的に刺激すると脳波に一種の間歇的律動が,前頭部に著明にしかも左右対称的に誘発されるのをみて以来,その知見が検討されて,いわゆる閃光刺激(photicstimulation)という賦活法にまで発達し,この誘発法の普及するにつれて本邦においても光原性てんかんの報告をみるにいたり,現在まですでに7例が報告されている。
最近,われわれも典型的な光原性てんかんの1例を経験した。この症例では後頭部の臨床症状への関与が一応注目せられた。また,この症例の家族は精薄家系であり,父,姉妹の脳波検査を行なつたところ,興味ある知見をえたのでここに若干の考察を加えて報告する。なお,本例は経過観察中に死亡し剖検の機会をえたがここではその肉眼所見についてのみ報告し組織病理学的所見はあらためて報告する予定である。
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