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I.はじめに
かつて大阪大学佐野勇助教授1)は分裂病者の尿に常温ミロン反応とウロビリノーゲン反応がしばしば陽性なることをのべていた。私はこれを追試するうち,一部の分裂病患者のことに初期において本反応が陽性に出ることがあるが,慢性化すると漸次消失する場合が多い。しかるにクロールプロマジン大量投与を続けていると,ミロン反応は煉瓦紅色よりむしろ紫色をおびてきて特異な色調を呈することを知つた。そのうち過塩化鉄と塩酸をパカタール,クロールプロマジン稀釈水溶液に加えると紅色,服用者の尿に加えると鮮明な紫紅色を呈することを知り,一応の報告を志しているうち1957年にいたつて,Forrestらはフェノチアジン核を有する薬物の摂取により尿に一連の呈色反応を生ずることを発表した。すなわちクロールプロマジン尿(5容)+5%FeCl3(1容)+10%H2SO4(4容)2)で紫色を,プロマジン(Sparin)尿3)で紅色,メバジン(Pacatal)尿で赤橋色に傾き,レセルピン,ナイアシン,バルビタール,メプロバメートは反応せず。ただしアスコルビン酸のごときものを大量投与すると緑変し,アスピリンで紫色になるとのべている。Lin4)は過塩化鉄浸漬硫酸松脂紙をフェノチアジン系薬物服用者尿に点滴して紫変することを発表し,Forrest5)6)はまたベスプリン尿に三塩化酢酸と硝酸ウラニル加濃塩酸を混じて紫色を呈することを500人の患者で検して,98%まで一致するとのべ,コンパジン,トリラフォン,ダルタールの服用者尿に三塩化酢酸とHg(NO3)2を加えて紫色を呈することをみている。Vesell7)は,コンパジン尿にFeCl3とHClを加えて紫色を,Forest8)はチオリダジン尿にFeCl3と硫酸を加えて紫色を呈することをのべている。彼9)はさらに,イミプラミン服薬者尿に0.2%重クロム酸カリ,30%硫酸,20%過塩素酸,50%硝酸を等量混和して注加すると緑青色に着色するとのべている。Heyman10)は硝酸第二水銀と硝酸ウラニルと過硫酸アンモンに浸した紙にフェノチアジン尿を滴下し,過酸化水素と濃塩酸を加えて紫変することを知つた。Levine12)らはForrest反応を評し,尿中排泄胆汁分解物やインジカンなどが紫色調を呈するため,肝障害や便秘のある患者の尿はフェノチアジン尿と区別できないと発表し,この研究に一応の終止符をうつた感があつた。フェノチアジン大量服用者が時に肝障害を生ずることは確かであるが,インジカンや胆汁分解物の尿排泄時のこれら試薬による呈色はフェノチアジン大量服用尿に比してきわめて弱く,臨床症状を参考にすれば明瞭に区別できる。またイミプラミン尿の緑色反応は特異な色調であり,まぎらわしい反応はきわめて少ない。よつて,抗精神病薬服薬者にしばしばみられる服薬拒否や秘かに棄薬が医師看護員の気づかぬ問に行なわれていることを臨床症状と対照して発見するには有意義な検査法である。C. L. Hueny13)はプロマジンが尿に排泄される場合,原薬物と多少,構造式の変化をきたして排泄され,その変化に個人差があるとのべているが,これらの薬物服用者尿の尿中排泄薬物の定性と半定量,服薬最と排泄薬量の関係を知ることもできる。よつて,私はForrest反応を追試し,これに批判を加え,さらに最近発表された新薬に新しい特異呈色反応を発見したので,ここに報告する次第である。
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