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本論
無呼吸にひき続いて典型的な強直性けいれんがおこつてくるとき,pH測定の結果,生体においてはかなりの酸性化が行なわれる。明らかに,反応様式はいくつかの相期によつて経過する。第1期は迷走神経の最大興奮期であり,このときには無呼吸が著明となる。われわれはこの反応指向をトロフォトロピー2)と名づけている。第2期は強直性けいれんの最大期である。それをエルゴトロピー2)とよぶ。ひき続く第3期では,反応系はふたたび正常状態に戻る。このクリーゼの極点は無呼吸と強直性けいれんであり,その目的とするところは十分な酸性化の成就にあるように思える。自律神経性統御に関する長年の臨床観察とその知識により3つの相関をもつこのクリーゼは自律神経中枢たる間脳と延髄の障害の表出にほかならぬと考えられるにいたつている。すなわち,トロフォトロープ期に始まり急激な変化をもつて強直性けいれんを示すエルゴトロープ期へと展開し,ついで発作後睡眠の軽度のトロフォトロープ傾向をもつ後期に移つてゆく。この特殊な体制は緩和運動(Kippschwingung)の原理によつて十分に分析される。ゆえに,まずこの新しい力動的原理について臨床医学的にかつ病態生理学的にふれてみたいと思う。
この緩和運動(Kippschwingung)の原理とは何であるか?通常,生体はその平静時には生命必須の自律神経機能を中等位,すなわち,ホメオスターゼ(Homoostase)の状態にたもとうとすることはよく知られている。しかし生体がその機能を急激に強力に逸脱されるような危機にさらされたときにはかかる静位状態を捨てねばならない。そのさい,ある種のクリーゼが瞬間的に成立してくるが,これは逸脱した一極位から始まり正常状態をこえてほかの極位へまで,激しく振動し,ついでふたたび正常位に戻つてゆく反応体制であるが,それは初め陰性相振動をもつて始まり,その能力限界,いうなれば極位にいたつたのちには緩和運動および過振動をひきおこす。ついで第3期はこの反応系は陽性相振動の形をもつて正常位に戻つてゆく。
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