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今日,科学としての精神医学は一つの転回点にさしかかつているといわれる。この傾向はすでに精神分析が現われた今世紀初頭からのもので,それ以来,ごく大ざつぱにいつて,異常な精神現象を大脳機能や身体的過程から説明しようとする精神医学,つまりObjekt-Seinとしての人間を研究する方向と,病者の生活史に深く踏みこみながらその精神生活の法則性を了解しようとする精神分析ないし現存在分析,つまりSubjekt-Seinとしての人間を研究する方向がそれぞれ発展している。前者にしたがえば,われわれはたとえば分裂病の個別症状をかぞえあげて,それを「了解不能なもの」としてとどめておかねばならぬし,また後者にしたがえば,了解への道は拓かれるかわり,科学としての精神医学の厳密性は疑わしくなる。一方は「精神下の」つまり身体的な領域に入りこみ,他方は「超精神的な」つまり形而上的な領域に入りこみ,どちらも「心理学的な」研究とはいいにくくなる。そこには「第三の道」がない。
こうした状況を見定めるところから,Conradの研究は始まる。すなわち,彼は精神病理をふたたび心理学的に取上げ,現象的事実そのものを心理学的に分析しようとする。彼はこのような分析的な努力の形式を形態分析(Gestaltanalyse)と名づける。なぜなら,体験されたものはすべて形態をもち,現象的事実の分析はつねに形態の分析だからである。著者によれば,形態分析の最終的な目標は,分裂病の症状や経過をバラバラに取出すことでなく,その構造関連を設定し,これによつて全事象を統一的な視野のもとに把握することである。こうした形態分析の手法で新鮮な分裂病シュープとくに妄想の体験構造を取扱つたのが本書である。
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