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I.はじめに
松沢病院は分棟形式による病院で24棟の病棟に分れており,少い病棟では22名から多いのは82名の患者を収容している。各病棟は治療を主とするもの,開放病棟,保護病棟などに分れてはいるが,その大部分が長い経過をたどつた欠陥分裂病患者によつて占められている。これは松沢病院の全患者のうち約66%が精神分裂病であり,しかもその精神分裂病患者の約半数までが発病後10年以上も経過しているということによつても理解できることと思う。
私がこれから述べようとすることは,慢性患者しかも不潔行為のため他の患者から隔離しなければならないような患者を主として収容する女子の一病棟における経験である。
私がこの病棟において使用した薬剤はクロールプロマジン(主としてウインタミン,コントミン)レセルピン(主としてセルパシール,アポプロン)が主なものであつた。その他にプレジシール,フレンケル,PZC,トリラフォンを用いたが後者はいずれも,試供品であり,長期の間は用いられなかつたし大体他の治療法と併せ行つたもので,ここでは附加的に取扱うことにし,クロールプロマジン,レセルピンを中心として話をすすめたいと思う。
クロールプロマジン,レセルピンについては,すでにいろいろの研究の結果が発表されており,第54回日本精神神経学会においてはその宿題報告が行われて一応の結論をみた感がある。しかしふりかえつてみると私達の経験はそれ程長いものではない。松沢病院においてはじめてクロールプロマジンが試用されたのは昭和30年でありレセルピンもほとんど同時期からはじめて使われたのである。それもはじめのうちは製薬会社の試供品で薬がなくなれば中止しなければならぬ状態であつた。本格的にこれらの薬が使用されたのは,昭和30年後半頃から昭和31年にかけてと考えてよいと思う。その後使用量は次第に増加しクロールプロマジンは昭和33年9月中には25mg錠剤として34,500錠,同期のレセルピン1ヵ月使用量は60gという大量が用いられている。それでも長期使用の経験となると,それ程多いものではないが,私はここであらためて私の経験した慢性分裂病患者に対するクロールプロマジン,レセルピンの比較的長期の投与による変化について考えてみたいと思う。これらの薬についての薬理学的な事項などはここでは一切省くことにする。
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