衛生公衆衛生学史こぼれ話
10.不潔なヨーロッパ
北 博正
1,2
1東京都環境科学研究所
2東京医科歯科大学
pp.446
発行日 1985年7月15日
Published Date 1985/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207075
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ヨーロッパを訪ねると,王宮,寺院,劇場等,立派な建物が多くて圧倒されるが,別天師の時代の庶民はどうだったか? 結論を先にいえば,彼等はひどく不潔な生活を強いられていた.神聖ローマ帝国がおとろえはじめると,領主間の戦争や悪疫流行,飢饉,その他の災害に加え,外部からの侵攻があり,住民は疲憊し,「ヨーロッパ人は千年沐(ゆあみ)せず」と暗黒時代を記した史家がいたくらいである.英国のエリザベス一世女王の竈臣でタバコの紹介者ローリー卿(Sir Walter Raleigh 1552-1618)が女王のお伴をして,ロンドンの街角でぬかるみがひどく,女王が通れないのを見て,さっそく自分のマントをぬかるみの上にひろげて女王を渡らせ,女王の信任をいよいよ厚くしたという話があるが,当時は男女ともハイヒールをはいていた.わが国の高下駄(足駄)はぬかるみ用の履物であるが,屋内に入るときは,これを脱いで足を洗うのとは大分ちがう.
ベルサイユ宮殿は17〜18世紀の最高に立派な建物といわれるが,当時は便所がなく,王侯貴族は別室のおまる(御虎子)で用を足していた.
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