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はじめに
わが国では年間の自殺者数が3万人を超える状態が10年以上続き,2012年には3万人を下回ったものの,依然として高い水準を維持している。自殺の重要な危険因子である精神障害の中でも,気分障害のために医療機関を受診した患者は2008年に100万人を超えており,厚生労働省は「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」を立ち上げた15)。この中で自殺対策の重要な柱として精神医療の質の向上と精神科医療システムの整備・拡充が挙げられている。また精神障害は「広範で継続的な医療を提供して,国民の健康を保持する」対象の疾患およびこれに対する事業である「5疾病5事業」の医療計画に加えられた。自殺や精神障害,特に気分障害への対策が重要課題であり,精神科医療の水準が引き上げられることに対する強い社会的要請があることを示している。
こうした状況を受けて近年ではうつ病や自殺対策の重要性が広く認識されるようになり,精神科を専門としない医療者を対象としたうつ病に関連する啓発活動が盛んである。うつ病の早期発見や自殺予防の活動を実践する上で,うつ病の人や自殺の可能性が高い人を発見する機会の多いプライマリケア医の担う役割が特に重要であることは異論のないところであろう。わが国においては,欧米のようなプライマリケア医は不在であるが,内科や外科などの一般医がかかりつけ医としてプライマリケア医の役割を担っていると考えられる。その現場においても,うつ病を見逃すまいとする機運は徐々に広がっているように思われる。プライマリケア医の立場からすると,必要に差し迫られた結果であるかもしれないが,うつ病の診断・治療に主体的に取り組む者も増えているようである。
具体的には,内科やプライマリケアといった専門領域の中で適切な精神科的対応ができるよう,米国で考案された「プライマリケア医のための精神医学」(Psychiatry in Primary Care;PIPC)プログラムが日本においても活用されるようになってきている29)。しかしながらゲートキーパーとしてのプライマリケア医とメンタルヘルスの専門家である精神科医との連携が必ずしもうまくいっていない現状があり,そのことがプライマリケア医に精神科的対応への取り組みを躊躇させることにつながっているようにも思われる。
本稿においてはプライマリケアの現場でうつ病を早期に見出し,的確な治療につなげていく方策について,またその際重要になるプライマリケア医と精神科医の連携のあり方について,うつ病患者の支援につなげていく体制づくりについて,これまでに得られた知見をまとめながら考えていく。
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