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はじめに
月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder;PMDD)は,月経前症候群(premenstrual syndrome;PMS)の中の情動障害が前景に立った重症型であり,月経前約2週間(黄体期)から始まり月経開始とともに軽快する精神身体症候群である。症状としては抑うつ,いらだち,不安,混乱,食行動異常などの精神的なものと,乳房痛,腹部膨満感,頭痛,手足のむくみなどの身体的なものがある。PMDDはわが国の閉経前の一般女性で1.2%の頻度でみられ,とりわけ思春期女性に多く,その頻度は重症PMSとPMDDを合わせると29.6%に達するとされる5)。この障害のために日常生活や就労能力に支障を来すことは多いが,これまでは生理的現象とみなされて治療対象としての認識が不十分であった。最近,PMDDに対してはSSRI(selective serotonin reuptake inhibitors)が奏効することが判明し治療対象として認識されてきた6)。
ところで精神科領域ではうつ病,統合失調症,パーソナリティ障害などの精神障害が月経開始前に悪化することは知られていた(精神障害の月経前加速,premenstrual exacerbation)。月経前加速では,月経が始まってPMDDが消失しても本来の精神障害の症状は持続する。一方,PMDDの症候の中には,うつ状態,情動不安定,過食などがあるが,PMDDとうつ病エピソード,境界型パーソナリティ障害,過食症などの鑑別には経過を十分に見きわめる必要がある。最近,筆者らはうつ病エピソードの再発と過食症で再来したが,実はPMDDを合併していた症例で,SSRIを投与したところうつ病エピソードは寛解,過食症とPMDDは軽減したという経験をしたので報告する。このほかにもPMDDを合併している症例を3例経験したが,いずれもSSRIが基礎にある精神障害にも有効であった。閉経前の女性精神障害者の薬物治療においてPMDDの合併の有無に注目することの有用性を強調したい。なお症例報告を行った患者からは書面による同意を得ており,病態理解に支障のない範囲で個人背景に変更が加えられている。
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