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はじめに
2005年の京都での第23回日本森田療法学会において日本森田療法学会・日本認知療法学会合同シンポジウム「森田療法と認知療法の対話」の司会を担当する機会を与えられ,「認知療法の新たな展開」と題した導入を行った。マインドフルネスに基づく認知療法(mindfulness-based cognitive therapy;MBCT)3)に言及したのはこのときが最初であった。
翌年,第24回日本森田療法学会で再び日本森田療法学会・日本認知療法学会合同シンポジウム「続・森田療法と認知療法の対話」が企画された。「認知療法の新たな潮流」と題し「古典的」認知療法とMBCTの比較を試みた後で,MBCTに関するいくぶん詳しい紹介を行った2)。
いずれも公式な場での発言であり,個人的体験の侵入する余地はなかった。しかし,心中にはじくじたる思いがあった。
マインドフルネスとは,「意図的に,今という瞬間に,判断を交えず,独特の方法で注意を向けることである」と定義するKabat-Zinnの治療を知るには実際を体験するしかない。自宅のビデオテープを探して,NHKの海外ドキュメンタリー「癒しと心(Healing from Within)」(1993年)にたどり着いた。マインドフルネスに基づくストレス緩和(mindfulness-based stress reduction;MBSR)プログラムの対象患者はさまざまな身体疾患に伴う痛みや苦しみを主訴としていた。
映像を追いながら,マインドフルネスと認知療法を融合させたMBCTが西洋から発信されたことに衝撃と無念を覚えた。南伝仏教がマインドフルネスには反映されていると後に聞き,北伝仏教の影響下にあるわが国の創意と力量の不足にいっそう唖然とした。
小論では「MBCTの利点とは何か」という課題が与えられた。MBCTが最初の治療対象としたうつ病に論点を絞り,理論的独自性,適応,「古典的」認知療法に欠如している身体性の重視などの観点から,私見を交えて論じたい。なお,重要なことであるが,小論の執筆者はMBCTを施行した経験を持っているわけではない。
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