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はじめに
本展望では,筆者の角度からみた問題意識や今後の課題点を,抑肝散を中心に,「精神科医が臨床で応用できる漢方薬」を論述するように依頼された。筆者は先に開催された第107回日本精神神経学会学術総会(三國雅彦会長)の際に,教育講演で抑肝散の臨床応用について講演したので,その内容とも多少とも重複があることをご容赦願いたい。特に,筆者らのデータの記載はほぼ同様となることにはご寛容いただきたい。その講演における趣旨は,筆者のライフワークである「不幸にして『精神の病』に罹患して苦しんでいる患者が,治療という名のもとに薬物療法を施行され,その薬物療法の副作用のために,手が震え,体がひどく重くなるなどして,結果的には患者は『精神の病』との戦いの上に,薬の副作用との戦いも強いられるといった二重の苦しみ,重圧を背負わされてしまうような現行の精神医療界であって欲しくはない」といった思いを,偶然にも検討を始めた抑肝散を取り上げて論じることにあった。
さて,私のような世代どころか,ほとんど大半の現在の日本の医師は,医学生時代の授業で漢方医学を学ぶ機会は皆無であったように思う。どうも現時点では日本だけが,日本の医師免許さえ取得していれば,世界で唯一,漢方薬も処方できる国であるらしい。一昨年,中国・天津で開催された第37回日本脳科学会〔金学隆会長(学会機関誌Journal of Brain Science編集委員長,天津市金学隆森田心理学研究所理事長,天津医科大学生理学教授),本学会理事長は森則夫浜松医科大学精神神経学教授〕に参加したが,金教授によれば,やはり中国も西洋医と東洋医(漢方医?)の育成は,それぞれ別の大学や機関が担っており,上述の通りの実態らしいのである。
正直なところ,筆者は現在でも漢方医学は全くの音痴なのである。せいぜい昔から,時に風邪用の漢方薬を処方する程度が関の山なのであった。もっと正直を記すならば,漢方を独学し,熱心に患者さんを診察し,漢方薬をあれこれ使い分けられる医師たちをみて驚嘆するとともに,アンビバレントな気持ちさえも抱いていた。筆者が知り合ったたいていの「日本の漢方医」たちは,不思議に西洋医学も丹念に勉強していて,そこらの“並の”「西洋医」たちよりも西洋薬の知識もよほど豊富に有している印象があった。であるのに,「日本の漢方医」たちは漢方医学も勉強する向学心旺盛医なのであった。しかし筆者にしてみれば,一方では「ならばどちらかに決めて,もっと精進すべし」といった,今から思い返せば,ガチガチの石頭,「西洋」と「東洋」とは相容れられない,別の世界の医療であるのだ,などと決めつけてしまっていたのであった。しかし後述するようなちょっとした契機が,筆者の漢方医学観を払拭した。
筆者らが駆け出しの頃の恩師や先輩の精神科医は,皆が一様に,少なくとも筆者が研修医時代を過ごした愛媛大学では,初診から終診まで,診察といえば必ず聴診器とハンマー(打診器)を駆使し,握力を測定し,眼底を覗き,覚醒時脳波検査はルーチンであった。つまり昔の精神科医たちは,目前の患者の精神症状のオリジンが身体因性ではないかと,疑う,疑わないにかかわらず,まるで現在の神経(内)科医のように患者の身体を丹念に精査していたのである。そうであった証左の1つに,大学でもどこでも,精神科はたいていは「精神神経科」か「神経精神科」と標榜していたし,現在もほぼ同様の標榜が継続して用いられている。しかし当時から筆者は,このようにわざわざ「神経」を入れる標榜様式に,いささか奇妙さを覚えていた。「精神科」とだけの標榜でも,もうそれで十分なのではないのか,なぜなら「精神」という用語は,当然「神経」も包含しているはずなのである,と考えていたからである。
この当たり前の身体因重視の医療行為が,筆者にはどうしようもなく染みついているのである。いまだに白衣の胸ポケットには,いつものハンマーが,首部を垂れ,落ちそうでありながらも,しがみついているのである。
かような筆者の診療を横から眺めていた若手医師の古屋智英君が,こっそりと筆者に耳打ちしたのであった。「先生,抑肝散を使ってみてはどうですか,この患者さんに」と。当時から古屋君は漢方医学に熱心な医師で,私の診察を見学して勉強したいと申し出て,近隣の病院から毎週大学にやってきていた。現在は,当講座の助教として頑張っているのであるが,「体から入る」私の診察を見て,おそらく漢方医学的臭いを多少とも感じたのかもしれない。私の返事は,「ヨクカンサン? どう書くのそれ,どんな字?」。この瞬間が私の漢方との出会いであった。わずかに5年前のエピソードである。その時の患者さんは,レビー小体病であった。
Yokukansan (YKS) was developed in 1555 by Xue Kai as a remedy for restlessness and agitation in children. Prompted by the increasing life expectancy of the Japanese population, geriatricians have begun to use this traditional regimen for behavioral and psychological symptoms of dementia in the elderly. Moreover, our stuff reported that YKS therapy is a well-tolerated and effective remedy that improves the symptoms of schizophrenia, borderline personality disorder, Charles Bonnet Syndrome, pervasive developmental disorder, Asperger's disorder, neuroleptics induced tardive dyskinesia, and restless legs syndrome. The present review summarizes the available data based on the above our data. In addition, theauther presents the recent basic biological data of the potential applications of YKS.
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