書評
―山崎英樹 著―認知症ケアの知好楽―神経心理学からスピリチュアルケアまで
井原 裕
1
1独協医科大学越谷病院こころの診療科
pp.1233
発行日 2011年12月15日
Published Date 2011/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405102056
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震災の瓦礫のなかから,知性の樹が育ち,大輪の花を咲かせた。本書の著者は,三陸大槌の港町で育ち,杜の都仙台で開業した。本書執筆の途上で東日本大震災に被災し,脱稿の直前にご尊父を亡くされた。鉄屑の山,漂う異臭,重い喪の作業のさなかに,予定通り本書を上梓された。届けられた作品は,介護の書を謳っているが,内実は神経心理学から福祉制度,医療倫理までをカバーした認知症学の包括書である。
かつて,ゲーテは,「現実には詩的な興味が欠けているなどといってはいけない。というのは,まさに詩人たるものは,平凡な対象からも興味深い側面をつかみ出すくらいに豊富な精神の活動力を発揮してこそ詩人たるの価値があるのだから」(エッカーマン『ゲーテとの対話』)と述べたが,本書はまさに臨床詩人の仕事である。人生の晩秋の風景に詩的な価値がないなどということはあり得ない。一見,不可解なお年寄の行動にも,神経心理学的な意味があり,生命倫理のラディカルな問いが潜んでいる。それを見逃さない精神の活動力にこそ,臨床詩人としての著者の面目躍如たるものがある。
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