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はじめに
1.精神障害者は災害弱者
災害弱者とは,災害に際して犠牲になりやすい者を指す。高齢者,身体障害者とともに精神障害者は災害弱者の代表とされる。特に高齢・身体障害が加わると,危険性は飛躍的に高まる。
今回の東日本大震災における死者・行方不明者の状況も同じであったと思われる。また,ここ数年の地震,豪雨・水害,地滑りなどを振り返ってみると,ニュース報道される被害施設の常連として,認知症や精神病の患者さん用の施設は傑出している観がある。
2.なんちゃって避難訓練
このようなことに普段,精神科医は思いをはせているだろうか? 恥ずかしながら自分自身は,「起これば起こった時のこと,心配しても仕方ない。そもそもいざとなれば自分が生き延びるのが精いっぱいかもしれない」と思っていた。ところが2010年の秋に,筆者の勤務する病院の会議で「なんちゃって避難訓練では,やる意味がない」と思いつきで発言したことが契機となった。「では,本気の避難訓練をやるにはどうすればいいか考えなさい」,ということになった。そこから,本特集にご執筆いただいた白濱先生,徳野先生と知り合う機会が生まれたのである。
3.備えあれば確かによい
このお二方に我々の施設で,災害時の精神科施設における避難というテーマでご講演いただいた。筆者にとって,特に印象深いポイントは,まず「患者さんを1か所に集める」,であった。次に「携帯電話は使えないから最後までつながっている公衆電話に走れ」,であった。東日本大震災当日,この教えのありがたさを心より実感することになる。
このお二方の講義の記憶もまだ鮮やかであった2011年3月11日にあの地震が起こった。つい先日実践講義を聞いたばかりの若手医師や看護師の行動ぶりは,「1か所に集める」から始まり,災害時になすべきことにおいて理想的なまでに見事であった。以上が今回の特集を組もうと考えた背景である。
災害に際して生じがちな精神障害者の反応,職員へのケアなどの重要な問題は,本特集の他稿で詳述されている。申し上げるまでもなく,筆者は普通の精神科の勤務医である。だから自分の責任として,いざ大災害の時になんとか患者さんの安全を守りさえすればよいとしか考えていなかった。よって本稿でも,あの大震災の時のわが病棟における状況を想起して,最低限必要なノウハウについて述べるのが精一杯である。
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