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2011年3月11日に東日本を襲った未曾有の大地震発生から4か月が過ぎ,改めて被害に遭われた方々に,心よりお見舞いとお悔やみを申し上げるとともに,これからの復興と健康な生活の回復に向けての道のりに1日も早く希望の光が見えてくることをお祈り申し上げたい。被災地では復興へ向けての立て直しに懸命に取り組まれているところであるが,阪神・淡路大震災や新潟県中越地震の際に,被災者を対象とした健康診断や健康相談活動が住民の心のケアに役立ったという例が報告されており,今,子どものメンタルヘルス対策が優先的に取り組まれようとしていることは,喜ばしいことである。その際,過去の災害支援の経験から,柔軟で個別的な支援を心がけ,この時期にはっきりしてくる個人格差や問題の個別化に対応していくべきである。この個人差に注目した発達についての研究では,レジリエンス,あるいはposttraumatic growthという逆境の中でもポジティブに成長していく人々がいることが指摘されており,このような発達的観点からは,個別性と発達段階を考慮した地域サポートが鍵となる。個人差を拡大するリスク要因は,被害の程度などの環境要因から,年齢,身体的・精神的・知的障害の有無,そしてパーソナリティに至る個体要因までさまざまである。もちろん,これらの要因が確実に予測できるとは限らないが,今回のようにとてつもなく大きな災害では,リスク要因を持つ,いわゆる災害弱者をきちんとケアしていかなければならない。そのために,地域では組織的な取り組みが必要である。
今回の東日本大震災の被災地域は,医療全般に医師不足の地域であり,子どものメンタルヘルスについても空白地帯であった。これからの中長期的な災害後のメンタルケアは,日本児童青年精神医学会や日本小児科学会など関連学会が自治体と共同して計画している専門医の派遣なども意義が大きいが,これまで欠けていた,地域内の子どものメンタルケアの体制整備とサポートの継続性こそ必要不可欠である。このような実情を踏まえて,国や被災自治体,大学などが連携して,先例のない大規模かつ長期的なメンタルヘルス・サービス体制の構築に取り組もうとしているが,この大事業の成功を心から願うとともに,これまでなかなか克服できなかったバリアを越える,新しい地域モデルとなることを期待する。ここでいうバリアとは,まず,保健医療と教育の縦割り体制であり,第二に,一般小児科医と(児童)精神科医の協力体制の不足であり,第三に,児童精神科医と成人精神科医の連携の不足,などを指す。
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